求める人材観

1.スペシャリストとして
よく、学生さんから、「入社したらどんな仕事をするのですか?」とか、「入社2~3年目の社員さんはどんな仕事についておられるのですか?」とか質問を受けます。わたしは、そんなことはどうでもいいじゃないか、と思っています。
問題は、経験を積んで社会的にも信用が得られる30代後半、40代、50代にどんな社会的に意義のある仕事ができるか、が本質的に重要だと考えています。
若い人の感性が大切だとよく言われますが、経験の無い若い人に出来る仕事は限られています。そういう意味で、私は若い人には期待しません。
20代にしていただく仕事は、その仕事であげる成果そのものを目標としているのではなく、その仕事の経験が無いと将来40代になったとき困るから、やっていただくのです。つまり、経験を積む、ということです。

2.スペシャリストの仕事
経験を積んだベテランしか出来ない仕事の例をあげましょう。三洋堂が児童書に力を入れていることはお話ししました。店が50店舗できた段階でやりたい事に、「100円絵本シリーズ」があります。
いま、表紙がきれいな新刊の読み聞かせ絵本は1400円とか1600円とかします。一番安い犬猫絵本や、なんとかマン絵本ですら300円代の後半してしまいます。そうした絵本を、子供が3冊待ってきて母親に「買って」とおねだりする状況を考えて下さい。
1400円が3冊なら4200円です。大半の母親が「1冊にしなさい」と言わざるをえない額です。特に、現金収入の少ない農村地区では、380円×3冊の1140円ですら、だれもが気軽に毎週買える金額とは言えません。
「また買ってあげるから今日のところは1冊に」と本心から思ってる場合はともかく、財布と相談して「1冊にしなさい」と言わなければならない状況は、みじめです。わたしは、みじめな買い物をさせる商売は社会悪だと考えています。ですから、どんなに経済的に貧しい親、例えば生活保護を受けている母子家庭の母親でも、子供に「どれだけでも欲しいだけもって来てもいいですよ。全部買ってあげます」と言える「100円絵本」が創りたいのです。
この、100円絵本を創れるのはけして若者では有り得ません。普通に創って200~250円止まりでしょう。利益を無視しても。
継続的に取り扱うのに必要な利益を確保しつつ100円で絵本をお客様に提供するには、印刷・製本業界の裏を知り、信用のある顔で特別な条件を引き出せる40代か50代のスペシャリストが自分の能力の限りを尽くして安くして、その上で、無駄な在庫コストや流通経費がかからない供給体制のもとで計画的にお店に供給していくことが必要になります。

3.書店が行う出版活動とは
絵本以外の分野でも、書店が行うべき出版活動があります。それが、専門出版社が間違って出した一般書を、一般書として出版し直すことです。もしくは、若干の手直しで売れるようになる本を、手直しして出版する事です。
具体的な例で言いますと、わたしの尊敬する少数ですが大手以外の出版社の一つに「みすず書房」があります。なぜ尊敬するかというと、いい本をだしているからではありません。いい本を出している出版社は他にも沢山あります。私が「みすず」さんを尊敬するのは、専門書と間違えて出した一般書の「夜と霧」を、自らソフトカバーの低価格にして出し直したからです。
「高くても内容が良ければ売れる」、「高くても売れるのが内容が良い証拠」と考えがちな専門書出版社にしては希有な例です。本の中には、こうした「誤った専門書」、つまり専門書と間違えられないために箱入りハードカバーで世に出て、値段が高いために売れない本がいっぱいあります。そうした本を、装丁をかえるなどのトレードオフをして安く世に出し直すのが、書店として手掛ける出版活動の本質だと考えています。
これも、若者が版権を貰いに出版社へ交渉しに行っても、相手にして貰えません。業界で名も顔も売っているスペシャリストが行けば、少なくとも話ぐらいはさせて貰えます。
それから、若干の手直しのいい例として、岩波発行の松田版「育児の百科」があります。内容的にはとても推薦しやすい良く書かれている育児手引書ですが、如何せん写真が昭和30年代です。
ほかの内容はそのままに、写真とペン画だけ今風のものに差替えるだけで売行きは倍増間違いなしなのですが、この交渉、あなたたちにできますか?天下の岩波書店の一大ロングセラーにけちをつけるなんて、10年早い!と言われるのが落ちです。うちの社長くらいの年齢もいっていて、社会的にも認知されている人間が「こうしてくれたらこれだけ販売できる」と言って、初めて相手も聞く耳を持ってくれます。残念ながら今のうちの店数では、まだ岩波さんを説得できるだけの数をまとめることが出来ませんが。
商品の仕入にしても、大きな仕事はスペシャリストしか出来ません。例えばくちょっと前に「ちびまるこちゃん」が売れていましたよね。あの時期に、コミックとキャラクターグッズを集めて「ちびまるこちゃん」フェアが出来るのは、どこへ注文しても「品切れです」といわれる商品を、何処からともなく必要量調達してくることのできるスペシャリストだけです。
売れ筋の商品を新人が普通の注文窓口に発注してもまともな量が確保できるはずがないのです。